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東京地方裁判所 昭和42年(行ク)45号 決定 1968年4月23日

申立人 株式会社 清滝

被申立人 東京都知事

主文

被申立人が申立人に対し、昭和四二年四月二二日付四二中管一発第二九号をもつてした申立人の東京都中央卸売市場における付属営業の業務許可取消し及び施設使用指定取消しの各処分の効力を本案判決確定にいたるまで停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一  申立人の本件申立の趣旨及び理由は別紙一ないし五記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙六記載のとおりである。

二  疎明によれば、申立人は、本件処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認められる。被申立人は、申立人がその営業の本拠たる建物につき競売の申立を受け、また従業員の大半も解雇するなどして昭和四二年三月頃以降営業休止の状態にあるから、本件処分により特に損害をこうむることはないと主張するが、疎明によれば、申立人は現在多額の負債を有し休業同然の状態にあるものの、いまだ前記建物の所有権は失つておらず、最近にいたり窮状打開のため有力な株主から相当額の出資を受ける見通しも立ち、運営の如何によつては今後の再建を全く期待しえないものでもないことが認められるから、このまま本件処分の効力を維持するにおいては、申立人の右再建の機会が失われ、本案判決確定のときまでに企業の消滅という回復困難な損害を生ずるおそれが十分である。

三  被申立人は、本件は本案について理由がないとみえるとき及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときに該当すると主張する。しかしながら、本件営業許可取消処分は、東京都中央卸売市場業務規定第四〇条の二第一号、第三九条の四第四号の規定にもとづき、申立人が「付属営業を行うに足る資力、技能及び信用を有しないと認められる者」に当るとしてなされたものであるところ(右処分に併せて本件施設使用指定も取り消された)、疎明によれば、申立人は昭和三六年東京都中央卸売市場内に鉄筋コンクリート造陸屋根三階建建物を建築するに当り、工事竣工後五年以内(昭和四一年七月二〇日まで)に同建物を無条件で東京都に寄附するとの条件付で建築承認を受けたものであること、その後申立人は第三者から多額の借財を負い、右建物についても被担保債権額合計三、〇〇〇万円以上の抵当権、根抵当権が設定され、事実上寄附を実現できない状態となつたので、東京都は右の負債を整理させるため、昭和四一年九月、申立人の申請を容れて寄附期限を昭和四二年七月二〇日まで一年間猶予したこと、しかるに、申立人の経営状態は本件処分当時までなんら好転せず、前記のように休業同然の状態となり、東京都に納入すべき使用料等も期日までに支払われなかつたことがそれぞれ認められるが、右寄附手続の不履行が、付属営業を行うに足りる資力、技能及び信用を有しない場合に当るかどうかは、付属営業人の市場内の建物建築について前記のような条件を付することの合理性、必要性等をも検討したうえでなければにわかに決しがたいところであり、その他本件疎明にあらわれた諸般の事情を考慮しても、現段階においてはいまだ、申立人が右の資力、技能及び信用を有しない者に当ることの疎明ありとすることはできず、結局、この点の判定はなお今後の本案の審理をまたなければならない。また、公共の福祉の点については、中央卸売市場が公益的目的で設置された公の施設であるにしても、本件において、申立人の営業を許すことにより、同市場の業務の運営を著しく阻害し、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとまで認めるに足りる疎明はない。よつて、被申立人の主張はいずれも採用することができない。

四  以上により、申立人の本件申立は理由があるから、これを認容することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 佐藤繁)

別紙一

執行停止申立書

申立の趣旨

被申立人が申立人に対し昭和四二年四月二二日四二中管一発第二九号を以てなした申立人の東京都中央卸売市場における付属営業の業務許可取消及び施設使用指定取消処分の効力はこれを停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

との裁判を求める。

申立の理由

一、申立人は昭和二三年一一月大洋食品工業株式会社の商号で設立し、同二十四年三月東京都中央卸売市場内の魚肉ねり製品の製造その他一般水産加工業の付属営業の業務許可を受け、場内の被申立人指定の場所において営業を継続して今日に至つているものであつて、その間東芳水産株式会社、東宝水産株式会社、東宝物産株式会社、現在の株式会社清滝と順次商号を変更した。

二、被申立人は昭和四二年四月二二日申立人に対し四二中管一発第二九号を以て、申立人が「付属営業を行うに足る資力及び信用を有しないと認められる」として東京都中央卸売市場業務規程第四〇条の二第一号に基き申立人の東京都中央卸売市場内における付属営業の業務許可取消及び施設使用指定取消の処分を行つた。被申立人は右処分に際し公開による聴聞は勿論、何の審査もせず、申立人に意見陳述の機会も与えず、全く抜打的、一方的に何の証拠にも依らずして、前記処分を為したものである。

三、申立人は被申立人の右処分に不服のため行政不服審査法に基きその所定期間内である昭和四二年六月一四日異議申立をなし、又同年八月七日行政不服審査法第三四条に基く右処分の執行停止(効力停止)の申立をしたが、同月二十四日右執行停止の申立は何等の理由を示すことなく却下された。

四、被申立人の処分は憲法違反

(1) ところで被申立人が前記処分の根拠とする東京都中央卸売市場業務規程第四〇条の二第一号には、知事が付属営業人の許可を取消す場合として「第三十九条の四第一号、第二号及び第四号の一に該当するに至つたとき」とあり、その第三十九条の四第四号には「付属営業を行うに足る資力、技能及び信用を有しないと認められる者」とある。しかし、「すべて、国民は個人として尊重せられ、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、国政の上で最大の尊重を必要とされ」(憲法一三条)、また「何人も公共の福祉に反しない限り居住、移転及び職業選択の自由(営業の自由も含む)を有する」(同二二条)。しかるにいま、都知事の専断をもつて、附属営業を行うに足る資力、信用を有せざるゆえを以て営業の許可を取消し、施設の使用、指定を取消されるときは、附属営業人は、営業を為す能わざるに至るため、営業の自由を事実上剥奪されるのであつて、かかる何の審査もせず全く抜打的、一方的に国民の権利の剥奪を許容することは切捨御免の封建時代における酷吏のやり方としてはいざ知らず、憲政下においては、許されざる不当行為である。本件市場業務規程のような国政の上で国民の権利の蹂躙を許容する規定は、憲法の精神に著しく反するを以て法たるの効力を有するものではない。

(2) 憲法第三十一条は、「何人も法律の定める手続によらなければその生命若しくは自由を奪われ・・・・ない」としている。然るに本件処分の如く突然営業を行うに足る資力、信用なしとして、営業を取消し、申立人の営業の自由を奪うことは、法定手続を保障する右憲法に違反するものであつて、かかる処分を認めた本件業務規程は憲法に違反しその効力を有しない。

(3) 附属営業の許可、施設使用指定がなされ、いつたん許可が与えられるときは、許可を受けた国民は許可を信頼して投資を為すものであり、そして許可により一種の権利、財産的利益を生ずることは、頗る顕著な事実である。すなわち申立人は請負代金六百四十六万円、追加工事代金九十二万三千八百円計七百三十八万余円を投資して建物を建築(疎甲第 号証参照)し、なお之に雑作費営業設備費等を費やし、いわゆる市場の許可権は数千万円の価値を生じている。この状態において「お前は、営業を行うに足る資力、信用がないと認めるから許可を取消す。土地を直ちに明渡せ」と抜打ち的処分を認めることは行政権により申立人の有する財産を不当に侵害するものであつて、正に憲法二九条で保障する財産権の不当侵害に外ならない。かかる財産権不当侵害を許容する前記業務規程は右憲法の条項に違反する無効のものである。

(4) 附属営業を行うに足る資力、信用を有しないとして営業の許可を取消し、施設使用指定を取消すことは、業務に対する不当な行政干渉である。営業を行うに足る資力、信用を有しないときは、経済社会において、営業ができなくなる。これは自由主義経済社会における当然の現象である。この場合都が、「お前の店は営業を行うに足る資力、信用を有しないから、営業を取消すぞ」と宣言することは、福祉的助長行政を司る都としては大なる行き過ぎであり権限の濫用である。都に納付すべき手数料を収めなかつたから許可を取消すとか、仕入代金を払わぬから取消すというのであれば、都に利害があり、又、市場の経済秩序維持上許可を取消す必要もあり得よう。そうでなくて申立人が都に対する納付金を怠らず仕入代金も障りなく支払いつつあつて(疎甲第 号証)都に何の利害もないのに、御前の店は資力、信用がないといつて取消すときは、却つて、取引界を混乱させ、当該経営者の信用を傷つけ、さもなければ立ち行ける営業を、却つて立行かないものにする。都の設置する卸売市場で業務を行うことを許されるには、資力、信用あるものに限るとして許可の当初選択されることは都自由の裁量行為として首肯される。しかし、いつたん許可され、営業を為すことを許され、そこで独立の営業者として業務を営んでいる以上、その立場、それの基本的人権は尊重し、保障されなければ、文化国家としても法治国としてもなり立たない。経済の動きにより市場の営業の活発なことも不況のこともあろう。市場で業務を営む者が不振の場合にはこれを擁護することこそ市場管理者として採るべき通である。この場合逆に、急に恣意的に、独自の判断で或る特定の業者に対し、資力、信用がないとして、営業を取消し、その営業所からの退去を求めることは、国民の権利、自由を保障する憲法十一条、十二条、十三条等の法意に違反するものであつて、かかる処分を認める本件業務規定は右憲法に反し無効である。

随つてこれ等憲法に違反する業務規定に基く本件処分は無効である。

五、「業務規程はその基本法に違反する」仮りに前記業務規程が憲法に反しないとしても、業務規程はその基本法たる中央卸売市場法に違反する。すなわち、

(1) 中央卸売市場法第一八条第一項によれば、「農林大臣は開設者又は卸売の業務を為す者……業務規程に違反したるときは左の処分を為すことを得……三、卸売の業務を為す者の許可の取消又は業務の停止」とあり、第二項に、「第一〇条の八の規定は、前項の規程に依る処分を為さんとする場合に之を準用す」とあり、第一〇条の八には「農林大臣処分を為さんとするときには当該処分の相手方に対し相当の期間を置きたる上、期日場所及処分の原因たる事由を通知して公開による聴聞を行い、その者又はその代理人が証拠を提示して意見を陳述する機会を与うべし」とある。

それゆゑ中央卸売市場法に依れば、業務の停止許可の取消処分を為さんとするときは公開による聴聞を行い、証拠を提示して意見を陳述する機会を与うべきを命ぜられおるを以て、都知事が本件の業務許可の取消を為すにはこの手続を践むことなくしてて、抜打的に取消処分をすることを認めるとすれば、基本法たる中央卸売市場法の法意に反する違法なもので、規程は無効である(業務規程上此等手続の履践を要するものとせば、之を践まない本件処分は此の点で無効)。

(2) 中央卸売市場法第三条には、左に掲ぐる事項は業務規程を以て定むべし

一、中央卸売市場の位置、面積、取扱品目

二、中央卸売市場の収受する使用料、保管料、手数料

三、業者の収受する手数料

四、市場における売買の方法

開設者は業務規程を以て卸売の業務を為す者の数の最高限度又は取引方法に関する制限を定むることを得

とあつて業務規程を以て定めうることは同条に列記されあるを以て、右列記事項以外にわたり、市場業務規程第三九条の四第四号を同第四〇条の二の一号で付属営業人に引用して、附属営業人が「資力、技能及び信用を有しないと認められるときは、その営業の許可を取消す」ような業務規程を設けることは、その基本法たる中央卸売市場法に抵触し、基本法の委任せざる事項なるを以て、本件業務規程は、権限外の立法としてその効力を有しない。

(3) また、中央卸売市場法第一〇条の五の二には、第一〇条の許可には条件を附することを得

前項の条件は中央卸売市場に於る卸売の業務の適正且健全なる運営を確保する為必要にして最少限度のものに限るものとし且当該卸売業の業務を為す者に不当なる義務を課するものなることを得ず

とあるのに、前記業務規程は右に反し業者に必要最小限度を超えて不当な義務を課している。

(4) 中央卸売市場法第一六条は、業者に対する業務の停止、十万円以下の過怠金の賦課、又は売買に参加する者の入場を停止し得る権限を業務規程に委任しおるも、その以上の営業許可の取消までのことを業務規程で定めることは認めていない。従つて本件業務規程は基本法たる中央卸売市場法の委任を超えた権限外の立法であり無効である。

(5) また右市場法第一〇条の六、一〇条の七によれば、農林大臣ですら本件業務規程に定めるような「資力、技能及び信用を有しないと認めるときは営業の許可を取消しうる」までの厳重な処分をなしうることを認めていないから、本件業務規程は右法の法意に反し無効である。

随つて無効の業務規程に基く本件処分は無効である。

六、「本件処分の条件欠缺」仮りに右各主張が理由ないとしても前記の如く業務規程には「付属営業を行うに足る資力、技能及び信用を有しないと認められる者」とあつて付属営業の許可を取消しうるのは「資力」、「技能」、「信用」の三つを欠く場合に限る。

(1) 然るに申立人に対する本件処分は、その処分理由によれば、「資力」及び「信用」の二つを欠くとしてなされたものであつて、許可取消の要件の一つたる「技能」については何等ふれておらず、業務規程にすら違反する違法な処分である。

(2) のみならず申立人はその得意先等からは技術を高く買われて、信用を得ており、付属営業を行うに足る資力を有し、処分理由の如き状態では決してない。若し信用のない状態であれば今日の自由主義経済の下で営業をなし得る筈があり得ない。

七、「本件処分は権限の濫用」申立人は昭和三十五年六月被申立人より卸売市場整備のため工場移転の指令を受けたので、松尾建設株式会社と工場建築請負契約を結び、被申立人の許可を得て資材の購入等諸準備を整えたところ、移転先として指定された代替地は市場内業者の空箱の集積地であり、建築不能の状態であつた。申立人は当時の市場管理者に再三再四陳情したが管理者は善処を約すのみで何等の措置を取らなかつた為め、建築遅延により多大の損害を被り、その損害の余波は現在にもなお及んでいる。その上建築竣工後鑵詰事業で数千万円の不渡手形をうけ、そのため昭和四一年七月現役員に交代、新後援者より約壱千七百万円の融資を得て旧債務数百万円を支払い、営業を刷新して、新規機械を購入、従業員を充実して業況は順調に進みつつある矢先き本件処分を受けたものであるが、営業面では、仕入代金の支払は遅滞なく行ない、勿論市場管理部えの納金を怠つたことなく、得意先からは申立人の技術を高く買われて信用を博しているのである。

それゆゑに仮りに業務規程が適法としても、かかる規程は濫りに発動すべきではない。当該業者が市場の経済秩序を甚だしくびん乱し、都の利益を著しく害する等止むを得ざる場合のみに適用すべきである。仮りに借金が一方に在つて資力、信用が十分でないところがあつても、市場の秩序又は都の利益を何等害せず、無事平穏に業務を営む者に対し、規程を軽々しく適用するときは、不況にあえぐ懸命の業者の多くが、都から懲罰的に営業を取消され、徹底的な災厄を加えられることになる。業者に借金のあることは懲罰を加える理由にはならない。若し借金があるゆゑに営業を取消されるならば、中央市場の業者の殆んど大部分が業務を取消され、建物の収去、明渡を強制されることになる。借金があるからとて営業を取消し懲罰を加えられた例は現代の文明国では嘗て聞かない。業者にとつて営業を取消される程大なる懲罰はない。引用される卸売市場業務規程が若し有効とせば、恐らく世界における最至厳の悪法であり、わが東京都は、現代世界における最も恐ろしい政庁といわれるであろう。されば規程の適用は慎重の上にも慎重を要するに拘わらず、特別の事由なくして濫りに適用したのは行政権の濫用であり、本件処分は無効である。

八、申立人は被申立人の本件処分に不服のため前記各理由に基き昭和四十二年十月 日御庁に本件処分無効確認の訴を提起したが、申立人は本件処分により営業が出来ないためこのままにして本案訴訟の結論をまつていたのでは休業による損失、得意先喪失による損失等申立人自身にとつては勿論従業員等関係者にとつても回復し得ない多大の損害を被るため行政事件訴訟法第二五条により本申立に及んだ次第である。

別紙二

第一、「被申立人の主張」に対する答弁

一、第一、二項は認める。

二、第三項のうち「移転先は更地であつて、建築不能な場所ではなかつた」点を除きその余は認める。移転先として指定された場所は建物こそなかつたが、申立書記載の通り市場内業者の空箱の集積地であつて、空箱山積、建築不能の場所であつた。申立人側の調査によれば、右土地は当時市場側で内々に業者に賃貸していた場所である。

三、第四項は認める。但し本件建物寄付の条件については申立人側では納得できないものとして厳重に抗議したが、被申立人側はその条件でなければ施設使用指定もしないし、営業の許可もしないといつて寄付を強要した。申立人としては之に応ぜざれば営業は不能となり、つぶれる外ないので、圧迫に屈して不本意に右条件を飲まざるを得なかつたもので、窮地に陥入れられて止むなく表示せしめられた非真意の意思表示か、然らざれば強迫乃至民法九〇条に反する無効な寄付である。

四、第五項のうち(ただし、昭和四二年三月ごろ以降は、ほとんど営業休止状態にあつた)点を否認、他は認める。

五、第六項のうち(二)乃至(四)は認める。被申立人は(一)において昭和四一年六月頃申立人所有の本件建物につき抵当権等の設定のあることが判明したと主張するが、これ等の登記は建物の竣工直後たる昭和三六年八月頃より設定登記され、被申立人は毎年市場内の各営業人の使用状況、経理内容等を調査しているのであるから既に昭和三六年頃からこれ等の事実は充分承知していた。

六、第七項のうち

(一)は全部不知、

(二)のうち申立人会社の現場責任者が出頭し(ア)(イ)の説明をしたことは認めるが他は否認。申立人は本年三月頃も営業しており休業状態ではなかつたし、又債権者会議を開いたことは全くない。

(三)のうち申立会社の元取締役渡辺勝径が前記五十嵐と市場管理部を訪れ(ウ)の如き説明をしたことはあるが他は否認する。当時申立人は主として月曜日と木曜日に市場外の貸店舗で魚肉練製品(サツマアゲ)の製造即売をしていたため、主としてその前日の日曜及び水曜に本件建物でその半成品の製造をしていた。当時の従業員は二十余人であつたが、申立人に対する施設使用指定期間たる昭和四二年九月三〇日以後の期限更新についての被申立人側の方針がはつきりしていなかつたため、申立人としては之に対応して規模を縮少しつつあつたため、実際に活動している者が六人である旨説明したのであつて、事業を拡大しようとすればいつでも他の者も働き得る状態であつた。

(四)及び(五)は否認、但し不動産の競売申立、競落取消の事実は争わない。オーストラル、ニホンバイヤースとの取引は輸入の羊肉が見本と異なり、売買の目的を達しなかつたため申立人としては非常に迷惑したが、相手方では、後の取引で埋合わせをするからとのことで止むなく妥協したものであるが、該取引は本件処分が行われた遙か以前の五年も前のことで当事者間で話が纒つて取引の継続を約する根抵当権の設定登記が行われたのが昭和三九年十一月二十七日である(乙一〇)。随つて今日に至つてかかる過去の事情、殊に既に話のついている取引に関し、而かも一方のみの片言を聞いて事を云為すべきでない。

(六)は認めるが、当時申立人の会計は申立書記載の現住所である港区西新橋二丁目一一番四立川ビル内で行つていたため、一旦市場内の申立人の所に来た納入通知書をまとめて立川ビル内に持参し、それから支払う手続をとつていたため遅れたことがあるにすぎない。

七、第八項は申立人の従来の主張に反する点はすべて否認。

八、第九項は認める。

第二、被申立人の「却下を求める理由」に対する反論

一(1) 申立人の憲法第一三条、同二二条違反の主張に対し被申立人は「憲法で認められた自由や権利も公共の福祉に反しない限度において享受さるべきものであるから、これに反することとなつた者について許可の取消しを定めた業務規定が憲法の精神に反するものとはいえない」と主張する。しかし申立人の自由や権利が如何なる点で公共の福祉に反するのか、被申立人の主張する申立人の行為が公共の福祉すなわち国民一般の利益と何の関わりがあるのか、使用料の納付が仮りに多少の期間遅れたことが若しありとすれば、被申立人としては、法により督促し、徴収すればよいことであり、申立人に債務のあることは、申立人の私経済に関することで公共の福祉と何の関係もないことである。申立人の従事する附属営業は、中央市場の業務、取引には直接関係のない、さつまあげなどの業務を営んでおり、之を営むに足る資力、信用に缺けるところなく、懸命にその業務を励んでいたもので、何等公共の福祉に反した行為のあつたものでない。元来公共の福祉なる観念は寧ろ基本的人権を実質的に保障するものである。積極的に公共福祉に反しない限り、公共福祉に名をかりてみだりに基本的人権蹂躙の具にこれを用いる如きは甚だしき誤りである。

元来被申立人が本件処分の挙に出たのは、申立人使用の土地を明渡さしめて、之を他に利用せんとする目的から「附属営業を為すに足る資力信用なきこと」に名をかりたものであつて、被申立人の本件処分の動機は公共の福祉に何の関係もない。単に被申立人自身のみの利益の為である。

(2) 本件処分の如く事前に何等の公的審査等を行うことなく全く突然に営業を行うに足る資力、信用なしとして一方的に営業の許可を取消し、申立人の営業上の生命を奪うことは憲法第三一条の精神に反するものである。若し被申立人云う如く行政処分(その執行も含む)には何等の事前手続を要しないものとすれば行政処分の名の下に人の生命・自由・財産等について行政庁の独断による勝手な侵害行為が行われることとなり全くの暗黒政治になりおわる。

凡そ国民の基本的人権は、公共の福祉に反しない限り、国政の上で最大の尊重を必要とする(憲一三)ものなれば、国民の権利、自由はこれは擁護する手続の保障と相いまつて初めて完全、実質的なものとなり得る。それゆゑ、国民の権利、自由は、実体的にのみならず、手続的にも尊重されなければならないことは当然であつて、この憲法の規定は、同法第三一条と相いまつて、国民の権利、自由が、実体的にのみならず手続的にも尊重さるべきことを要請する趣旨を含意すると解さねばならない。

そもそも、行政の作用は、国民の政府に対する信託に基づくものであつて(憲法前文参照)、行政の掌にあたる公務員は、全体の奉仕者として、誠実にその事務を処理する義務を負うべきは勿論である(同法第一五条参照)。

これらの点から考えれば、行政庁が国民の権利自由を規制する処分をなすにあたつて現行法制上なんらの手続規定がなく、またはそれが簡略なもので、いかなる手続を採るかを一応行政庁の裁量に委ねているようにみえる場合でも、この点に関する行政庁の裁量権にはなんらの制約がないと解すべきではなく、処分の掌にあたる行政庁は、できるかぎり、恣意、独断の介入する余地のないような手続によつて処分を行うよう配慮すべきことは当然であり、この限りにおいて、いかなる手続を採用すべきかその審査の方法は、処分を行つた行政庁の側において、処分の手続過程が、恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑われないような手続により行なわれたものなることを主張立証すべきものとする方式により行なわるべきもので、司法審査の対象は、処分庁が現実に行つた手続過程が、裁判所の客観的判断に照らして、恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑うことが客観的にいわれがないと認められるようなものであるかどうかということにあるものと解さねばならない。この意味において、国民は、恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑うことが客観的にない手続によらなければ処分を受けることのない法的利益の保障、換言すれば、これらの介入を疑うことが客観的にいわれがないと認められる手続により処分を受くべき法的利益の保障を享有するものと解すべきであり、かく解することが、国民の権利自由を実体的にのみならず手続的に保障しようとする憲法の趣旨にそうものといわねばならない。

之を要するに行政庁の裁量権には一定の制約があり、国民は、恣意、独断、他事考慮の介入を疑われることのないような手続によつて処分を受くべき手続上の保障を享有するものである(東京地裁昭三八・一二・二五日行裁判例集一四巻一二号二、二五五頁、判例体系憲法追補第二号(1)八三頁)

それゆゑに刑事に在つても、共犯者の所有物について刑法一九条または一九条ノ二の要件に該当する場合においても、更に憲法第三一条に従い、当該第三者に訴訟告知、聴問の機会を与えなければ、他人に科すべき附加刑としても、これを没収し得ない(最高大法廷昭三七・一一・二八日、同一二・一二、同一二、一九日)とされている。

されば被申立人の一吏員が内部的に或る種の情報を耳にしたゆゑを以て、何等の公的審査を行うことなく全くの恣意、独断でもつて本件処分を行つたのは違憲行為であり処分は無効である。

(3) 申立人が附属営業の許可にもとずいて建物を建築し、設備をなす等投資についてはすべて被申立人の許可を得ているものである。斯様に多額の投資をなすのは、許可存続期間満了のときは、更新され、半永久的に営業をなすことが出来ることを前提としているもので、被申立人としてもかかることを前提として多額の投資を許しているものであるから、後になつて営業を行うに足る資力、信用なしとして単に一片の通知により許可を取消し土地明渡の処分をなすことは憲法第二九条に反するのみならず、信義にももとるものというべきである。

憲法二九条第二項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」とある。被申立人のいうように、単なる業務規定を以て之を制約しうるものではない。

(4) 被申立人は本件処分をなすことが恰かも公共の福祉に合致するかの如き主張をしているが、申立人の付属営業は被申立人の主張する如き公共の福祉とは何等関係のないものである。中央卸売市場自体は公共の福祉を増進する目的で設置された公の施設であるとしても、そこでの附属営業を許可された申立人は、独自の計算に基いてさつまあげなどを販売している独立した私の営業であつて、被申立人に対する施設使用料関係以外においてはその取引自体は被申立人とは何の利害関係もない固より公共の福祉すなわち国民一般の利益とは何の関わりもないものである。申立人に資力、信用のないときは経済の原則により取引の相手方から嫌われて自然営業が困難不能となるにすぎない。公共の利害には全く無関係である。この点は附属営業をなす紙屋、飲食店などの他の多くの附属営業者の資力が公共の福祉に無関係であるのと同様である。被申立人の筆法でかかる場合にも公共の福祉の名の下に営業の許可を取消しうるものとすれば、商工行政の立場からあらゆる企業営業の停、廃処分を通産大臣はなしうる不当を招来する。されば資力、信用なしとして附属営業の許可を取消し、申立人の営業を不能ならしめる本件処分は、申立人の営業に対する行政権の不当な干渉であつて、申立人の振興を妨げて、債務の履行を益々困難ならしめ取引関係を混乱せしめるものである。被申立人の業務規程が若しかかる不当行為を許容するものとせば、違憲であり、本件処分は当然無効である。

二(1) 仮りに中央卸売市場法(以下法と略称)第一八条は、被申立人主張の如く農林大臣が開設者又は卸売の業務をなす者に対してする処分に関するものであるとしても、被申立人の上級庁たる農林大臣ですら卸売の業務をなす者の許可の取消又は業務の停止については、人権を守るため慎重な手続を必要とする法の精神からみれば、かかる手続を不要とする―若しくは履践しない―本件業務規程乃至処分は右法の精神に反し無効である。

(2) 法第一〇条の五の二違反についても右と同様法の精神に反するものである。

(3) 被申立人は附属営業の許可は法の規定に基くものでないので、これについては法の規定に拘束されないと云う。

しかし憲法三一条は、法に拠らざる権利侵害を許容しない。恰かも刑事について、罪刑法定主義の下、法によらずして刑罰を課し得ないと同様、法律の根拠なくして基本的人権の侵害を許容さるべきでない。それゆゑ若し被申立人の主張するように、附属営業に関しては何等の規定がないものとすれば、被申立人の基本的人権の侵害は、法の根拠のない明らかな違法行為である。

(4) また被申立人は、地方公共団体は地方自治法第一四条第一項により市場事業に関して条例を制定することができるから、市場の管理運営上、附属営業人の営業の許可を取消す業務規程を設けうる権限を有すると主張するようである。しかし営業許可の取消、施設使用指定取消処分のような基本的人権侵害を伴う処分は、憲法三一条の適用上明らかな法律の根拠が必要である。仮りに業務規程で之を定めうるものとせば、その濫用を制約する厳格な条件を定めて法律が之を委任する筈である。業務規程で当然かかる権利侵害処分を為しうるという被申立人の主張は失当である。

三、処分の条件欠缺の点について

(1) 業務規程第三九条の四第四号には「付属営業を行うに足る資力、技能及び信用を有しないと認められる者」とある。被申立人は右規定は「資力」、「技能」、「信用」のいずれか一つを欠く場合を意味し、その一を欠くときは営業の許可を取消し得ると云う。しかし右規定を文理的に解すれば「資力」「技能「信用」の三つを欠く場合たることは明瞭である。被申立人の解釈は牽強附会である。罰則事項や権利の剥奪事項について拡張解釈の許さるべきでないことは法律一般の大原則である。

(2) なお申立人が取引関係者から高く技術を買われ信用を得ていたことは申立書記載の通りである。特定の債権者から建物の競売申立を受けたからとて一般的信用を喪失したことにはならない。

四、申立人は営業の規模こそ幾分縮小したとはいえ休止したことは全くない。行政処分により営業し得なくなつたときは、営業収入、信用、得意先等の喪失により回復し得ない多大な損害を被ることは火を見るよりも明かである。被申立人主張の如く、右損害は金銭をもつて償いえられ、回復困難でないとすれば、人の身体、自由、生命等もすべて金銭をもつて償いうるもので金銭により償いえない損害は存在しない結論となり頗る不当である。又被申立人は本件処分の効力の停止により市場業務の正常な運営を阻害するというが、申立人の営業は市場業務と直接関係ないことは既述の通りである。

右の通り陳述いたします。

別紙三

被申立人の市場業務規程に基く処分は次の事由に依つても無効である。すなわち

一、中央卸売市場業務規程第三九条の四第四号を同第四〇条の二の一号で附属営業人に引用して、附属営業人が「資力、技能及び信用を有しないと認められるときは、その営業の許可を取消す」が如き濫用の可能性の多い、概括的規程に基く処分制度は、憲法の保障する営業の自由の本質と相容れないのみでなく、かかる資力・技能・信用の如何により附属営業人の職業選択の自由乃至営業の自由につき差別を設け、貧乏人等には一定の事業を許さないとする本件業務規程は、憲法第十四条で保障する「すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的経済的又は社会的関係において差別されない」とする法の下の平等に反し無効である。市場内の業者なるが為に憲法上の保護外に置かれ、市場には治外法権が与えられているものではない。「監獄法第六〇条の規定で一五日間の軽屏禁の懲罰を課せられた受刑者に対し、その期間中ラジオ放送の聴取を禁止することは、特段の事情のない限り(拘禁及び戒護上危険であること又は矯正教化の目的を阻害することが明らかな場合でない限り)、憲法一九条に反する」とする判例(津地裁昭三六・一〇・二一日行裁集一二・一〇・二、一三八頁)に徴すれば、特別の懲罰下に在る受刑者ですら基本的人権は尊重せられるのであるから、市場内の附属営業人たる申立人は、刑務所内の受刑者以上にその営業の自由を保障せらるべきである。

二、日本国憲法により保障される基本的人権は、旧憲法下において日本臣民が「法律の範囲内において」有したるものとは異り、立法によつても妄りに制限されないものであり(最高昭和二四・五・一八日刑集三巻六号八四〇頁参照)、制限し得る場合においても法律によるべきであつて(註解日本国憲法上巻(法学協会)二一一頁参照)本件の如く単なる地方自治体の業務規程によつてはなしえないものである。

被申立人は市場事業は地方公共団体の事務に属するものであるから本件の処分も業務規程により定めうる旨主張するが、市場事業自体は被申立人主張の通りとしても、事実上職業の自由等を侵害する処分である以上、法律によるべきであつて、業務規程によつて定め得ないものである。

三、申立人が「業務規程は憲法二九条に違反して財産権の不当な侵害を認める」と主張するに対し被申立人は、「財産権は絶対不可侵なものではなく、その内容は公共の福祉に適合すべきものである」と言う(答弁書第二の一(二)(ウ))。しかし憲法二九条第二項に基き公共福祉を理由として既存の財産権を制限するためには、法律による場合でも、同条第三項において公共のために用いるには正当な補償を要するとしている点から見れば、それによつて権利者が蒙むる損害に対し救済を与えることを必要とする(東京地裁昭三三・一・二五日下裁集九巻一号一〇八頁)。被申立人は既述の如く、本件場所を自ら必要とするところから、申立人に対し建物の寄附を強要し、業務規程に名をかりて、申立人使用の土地を明渡さしめんとするもので本件処分の動機は、公共の福祉に何の関係もないのであるが、仮りに公共福祉に関係ありとしても、之に対する補償なくして申立人の財産権を侵し得るものでない。

右の通り陳述する。

別紙四

右当事者間の昭和四二年(行ク)第四五号執行停止申立事件につき左の通り陳述いたします。

一、申立人の回復し得ない損害について

上来陳述の如く申立人は市場の附属営業としてさつまあげの製造販売を業とし、二十余名の従業員を使用して一日十五万乃至二十万の売上があり、本件業務許可取消処分を受けた当時は、右二十余名の従業員を臨時五名に減じ、他を待機せしめて営業を継続していたのであるが、本件処分による休業永きに及ぶときは、得意先も全く喪失し、現在勤務の五名の従業員並に担当役員の毎月の給与すら支払い得ず、これ等の者の生活上重大問題であるのみならず、待機中の従業員も遠からず四散し、将来新らためて募集して、さつま揚げ技術を修得せしめ、或いは販売技術を新規に教え込むことは非常に困難であります。

それゆゑ、本案で申立人勝訴の判決があつても、その確定を見るまで休業せしめられるときは、申立人会社は事実上営業能力を失ない、有名無実の会社として消滅する外なきことになり、延いて債権者の債権も弁済不能となり、多くの債権者に迷惑をかけ、このままの状態が続けば、申立人にとり回復し得ない損害を受けることは必至であります。

二、申立人としてこの窮況打開のため後援、出資者を求めたところ、幸い、株主中の最も資力信用のある銭高良之、立川将光は必要な出資をして、待機せる従業員を動員して営業を再開し、申立人の債務(有担保、無担保を含む)解決に乗出すことを契約しております。

三、右の次第で、本件処分により営業ができないままに本案訴訟の結論をまつときは、申立人にとり回復し得ない損害を蒙むるを以て、申立人は勿論、従業員並に債権者の損失を救済のためにも、本件処分の効力を停止する御裁判を御願いする次第であります。

別紙五

一、申立人の資力信用と公共の福祉

被申立人は市場内に資力信用を欠く業者が在るときは市場の効力を減殺するから営業許可の取消は公益上の見地から止むを得ないと主張するが、申立人は、附属営業を営む融資力を十分保有し、嘗て営業上の資金難に陥入つたことはない。借財はあるけれども、そのため被申立人の市場の効用を現実に減殺したことは一度もない。申立人はその資力信用のゆゑに附属営業人として市場内で営業を営むにつき嘗て支障を来たしたこともないし、他の業者乃至市場に迷惑を及ぼしたこともない。被申立人のいう附属営業人の資力信用が公共の福祉と関連があるというのは、単に抽象的な机上の議論に止まつて、申立人の資力信用が具体的に公共の福祉や公益に何等かの関連を過去に持つたことはない。

二、憲法第三一条は刑罰のみに関する規定でない

被申立人は憲法第三一条は刑罰のみを主眼とした規定という。しかし同条には、「何人も法律に定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ又はその他の刑罰を科せられない」と規定する。若し刑罰のみに関するものとせば、条文は、「何人も法律に定める手続によらなければ、刑罰を科せられることなし」とたんてきに規定するを以て足り、「その生命若くは自由を奪われ」の文字を必要としない。それゆゑ生命若しくは自由を奪われるときは、刑罰を科されないときでも、法律に定める手続を要することは、その文理上至つて明白である。学説としても、

「刑罰としてでなくとも、自由を奪う場合は、やはり刑罰の場合に準じた「法律の定める手続」を要求する趣旨を含むであろう」(宮沢俊義憲法II法律学全集四〇〇頁)。

「本条の自由とは、思想・身体・行動の自由を含む。…………更に行政上の処分として保安処分…………居住移転・職業選択・集会結社の自由制限にも及ぶものである」(三〇五頁)、「原則として当事者に理由を告げ、その弁明の機会を与えなければならぬであろう」(三〇四頁)(註解日本国憲法上巻法学協会、有斐閣)。

と、憲法三一条は、刑罰のみでなく、営業の制限にも、法律に定める手続を要し、その手続には、原則としてその当事者に理由を告げて、弁明の機会を与えるを要するとしている。本件のような抜打的行政処分による営業の剥奪は、同法に反することは極めて明らかといわねばならぬ。

三、憲法二九条第二項と本件処分について

(一) 被申立人は鉄筋コンクリート建物を土地に築造することを許可しても、土地の利用を半永久的に認めたものでないというけれども、堅回の建物の築造を許可するときは、特約のない限りその土地使用期間は六〇年である(借地法二条)ことから見ても、鉄筋コンクリート建の築造を許した以上半永久的に土地の使用を認め、重大な理由なくして濫りにその使用許可を中途で取消し得ないことは借地法の精神からでも明瞭である。

(二) また被申立人は憲法二九条第二項にいう法律には条例を含むという。しかし補償なくして行われる第二項によつて、権利を剥奪し又は剥奪と同視される制限を加えることはなし得ない。加うるに一様に制限を加える場合、例えば、農地改革による土地の強制買上のような一般的措置でなくて、特定の者のみを不利益に取扱うことは、公共福祉が如何に之を要請しても、第二項によつて為し得ない(註解日本国憲法上巻、法学協会二九一頁)のであるから、被申立人が本件申立人のみについて、施設使用許可を取消して、申立人所有の建物その他の物的施設の使用禁止の処分を為したのは、憲法二九条に違反するものである。なお第二項中には条例を含まず「財産権に対する規制は、他の基本的人権と異なり、たとえ、公共福祉の要請があつても、条例をもつてはなし得ず、専ら法律によらねばならない」ものである(総合判例研究叢書、憲法(4)一〇一頁以下)。

四、憲法一四条(法の下の平等)について

被申立人は合理的な差別は、法の下の平等の原則に反するものでない、という。しかし憲法第十四条は、不平等な取扱いを内容とする法の定立をも禁ずる趣旨と解すべきであつて、資産、信用がないと認められるときその営業を取消す規定は、同条の禁ずる経済的関係において差別するものである。蓋し人は、おのおの己れに適当する職業を選んで、その生活を維持する権利を有すべきものなれば、経済的差別を設けてその職業選択に制限を附することは、本条違反である。そして資産信用がないと一方的に思惟した場合に行政庁自らの判断で任意にその営業を取消すことは、合理的根拠に基く差別でなくて、行政庁の任意、勝手気儘な差別待遇を為すものであるから被申立人の所論は当らない。

右の通り陳述いたします。

別紙六

意見書

(申立ての趣旨に対する答弁)

本件申立てを却下する

との裁判を求める。

(申立ての理由に対する答弁)

一、第一項乃至三項記載事実は認める(ただし、第一項記載の業務許可月日は不詳、第三項記載の昭和四二年六月一四日付異議申立書は、同年同月二一日、中央卸売市場において収受。)。

二、第四項について

(一) (3)のうち、申立人が建物建築費等にどの程度の投資をしたかは不知。

(二) (4)のうち、申立人が仕入代金の支払いや都に対する納付金の納入を怠らなかつたということは否認する。

三、第七項について

(一) 申立人が、昭和三五年六月、被申立人より中央卸売市場整備のため工場(加工場)の移転を求められたこと及び昭和四一年七月に申立人会社の役員の交代があつたことは認める。

(二) 申立人が右工場(加工場)移転のため資材の購入等につき被申立人の許可を受けたということ、移転先が建築不能の状態にあつたということ、及び申立人は、本件処分をうけたころ、従業員を充実して業況順調であり、不入代金の支払い、市場管理部への納金等に遅滞がなかつたということ等の事実は否認する。

(三) その余の事実は不知。

四、後記被申立人の主張に反する申立人の主張の趣旨は否認する。

被申立人の主張

第一(事件の経緯)

一、申立人は、昭和二三年一一月三〇日、大洋食品工業株式会社の商号で設立し、同二四年(月日不詳)ごろ、東京都中央卸売市場業務規程第三九条(昭和三二年三月一六日条例第三号による改正前の規定)に定めるところにより、農水産物の加工を営業種目として同市場の附属営業人としての業務許可をうけ、そのころ、同業務規程第四三条に定めるところにより、同市場内に五〇坪の空地使用の指定(以下「施設使用指定」という。)をうけた。

二、その後、申立人の営業種目は、昭和二五年三月に「練製品製造其の他一般水産加工」に変更され(疎乙第一号証参照)、同人に対する施設使用指定の位置及び面積にも若干の変化があつたが、昭和三五年ごろには、申立人は右市場内に一一五・七平方メートル(別紙図面(一)の□の部分)の施設使用指定をうけ、そこに水産物の加工場を設けていた。

三、ところが、その頃、中央卸売市場においては、市場施設整備計画があつて、同計画によれば、申立人に対する施設使用指定箇所は買荷保管所の建設工事予定地内に位置していたので、中央卸売市場長は、昭和三五年六月、申立人に対し、既存の右加工場を撤去し、代替地(後記のとおり)に移転するよう要求したところ、申立人は、これを了承した。

なお、移転先は更地であつて、建築不能な場所ではなかつた。

四、その後、被申立人は、申立人の願いにより、昭和三五年一二月二七日付で、使用目的加工場、期間昭和三六年一月一日から同三六年三月三一日までとする市場用地八二・六平方メートル(前項にいう代替地であつて、別紙図面(二)の□の部分に位置する。)の施設使用指定をし、あわせて、申立人が同所において鉄筋コンクリート造三階建加工場二三九・四平方メートル(以下「本件建物」という。)を建築することを承認した(ただし、同建築承認をするにあたつては、竣功後五年以内に本件建物を都に無条件で寄付するよう条件が付された。(疎乙第二号証参照))。

五、以来、申立人は、右指定場所において、本件処分がなされるに至るまで、附属営業人として練製品製造其の他水産物の加工業務を営んでいた(ただし、昭和四二年三月ごろ以降は、ほとんど営業休止状態にあつた)ものであつて、その間、施設使用指定は、一年毎に期限を更新してなされていた(なお、最後の施設使用指定は昭和四二年三月三一日付をもつてなされ、期間は同年四月一日から九月三〇日までとされた。(疎乙第三号証参照))。

六、ところが、昭和四一年夏ごろに至つて、次に述べるような事情から、申立人の資力、信用を疑わしめるような事実が判明した。

すなわち、

(一) 昭和四一年六月ごろ、被申立人は、中央卸売市場内民有施設の一部の使用状況を調査した際、申立人に対し本件建物の登記簿謄本の提出を求めたところ、その提出があつて、本件建物については、抵当権、根抵当権設定登記、所有権移転仮登記、競売申立、差押等の登記があることが判明した。

(二) 次に、本件建物の建築承認にあたつては、竣功後五年以内に建物を都に無条件で寄付すべく条件が付されていたことは前述のとおりであるが、同建物の竣功時期は昭和三六年七月二〇日であつたから、中央卸売市場長は申立人に対し、昭和四一年六月二七日付文書(疎乙第四号証参照)をもつて、寄付期限たる同年七月二〇日までに寄付手続を完了するよう通知したところ、申立人は、同年七月はじめごろ、経営担当者を一新し、多額の負債を担保するため本件建物につき設定した抵当権を抹消するまで寄付期限を猶予されるよう願い出た。

(三) そこで、市場管理当局においては、申立人に対し、その経理の実態を明らかにするとともに対応策を示すよう要求したところ、同人から再建計画書(疎乙第五号証)が提出された。

なお、その際、申立人会社の現場責任者たる五十嵐進から経理については帳簿がずさんで正確な実態が把握できない状況にある旨説明があつた。

(四) 結局、被申立人としては、事実上寄付を受領できないと判断し、やむをえず、一年間寄付を猶予することとし、昭和四一年九月五日付文書(疎乙第六号証参照)をもつて、この旨申立人あて通知した。

七、その後、昭和四二年四月に至り、被申立人は、本件処分の理由たる次に述べるような事実を知つた。

すなわち、

(一) 申立人は、昭和四二年三月ごろから事実上営業を休止していたものであるが、そのころから市場内所在の建物が売りに出されているという噂があり、また、外部から中央卸売市場管理部に対し、電話をもつて、「場内所在の建物の所有権を取得した場合、取得者に業務許可や場所指定の処分がなされるか否か」問合せがあつたりした。

(二) そこで、前記のような事情から、噂の建物は本件建物にほかならないと判断した右管理部においては、申立人会社の親会社たる立川ペニシリン株式会社を通じて連絡して、申立人会社の現場責任者たる五十嵐進の出頭を求め、同年四月四日同管理部管理第一課長小松美天から前記営業休止の理由等について尋ねたところ、

(ア) 本件建物及び機械設備は、オーストラル・ニホン・バイヤーズ・プロプライトリー・リミツテツドの抵当権実行による競売申立によつて競売に付された(疎乙第七号証参照)。

(イ) 競売期日は、当初、昭和四二年三月六日であつたが、競売参加者がなかつたので、昭和四二年四月二四日に延期になつた。

(ウ) 申立人は、本年三月はじめから殆んど営業していない。

(エ) 一年ぐらい前から数回債権者会議を開いたが、右競売申立人は譲歩しなかつた。

等の事実につき説明があつた。

(三) その後、同年四月一八日(午前)に至り、申立人会社の元取締役渡辺勝径ならびに前記五十嵐進が市場管理部に来訪したことがあるが、その際両名が同部職員中島貞夫に対して説明したところによれば、

(ア) 申立人は、現在、日曜と水曜の夜間のみ少量生産をしている。

(イ) 従業員は最盛期には三八人いたが、現在は六人である。

(ウ) 申立人の負債額は、およそ一億二~三千万円あると推定されるが、前社長の中西茂芳の時代に帳簿がずさんであつたため、完全に把握できない状態である。

とのことであつた。

(四) 同日午後、右管理部職員中島貞夫は、前記競売申立人オーストラル・ニホン・バイヤーズ・プロプライトリー・リミツテツド(以下「オーストラル・ニホン・バイヤーズ」という。)の顧問たる朝比奈新弁護士の事務所を訪れ、本件建物が競売に付されるに至つた事情につきおおむね次のような説明をうけた。

(ア) オーストラル・ニホン・バイヤーズに対する申立人の負債は、羊肉輸入代金二千二百万余円のうち不払分最低見積額一千五百四拾万円(申立人会社の前社長中西茂芳の認めた分)である。

(イ) 両者の取引契約は、一九六三年九月三日に締結され、商品は一九六四年に二回、一九六五年に一回、それぞれ船便で輸入されている。

(ウ) 契約締結以来、代金が約定期限までに完済されたことがなく、さらに次のような不信行為もあつた。

すなわち、

第二回船荷の代金が未払いのうち第三回船がオーストラリヤを出航してしまつたので、オーストラル・ニホン・バイヤーズは、第二回船荷の代金支払いまで荷を申立人に渡さないよう手配したが、申立人会社の前社長中西は、どのような手段をとつたか不明であるが、倉庫から第三回船荷を引き出して売却し、しかも売先から売却代金を受取つたのにもかかわらず、オーストラル・ニホン・バイヤーズには代金を支払わなかつた。

(エ) 本件競売申立は昭和四〇年九月八日にした(申立外国民相互銀行から強制競売の申立てがあつたので記録添付されたのみで登記簿上は記載されていない。)。

(オ) 現在のところ、両者で話し合いの成立するきざしはない。

(五) その他、市場管理部においては、申立人が場内仲買入から借金し、長期にわたつて返済していないような事情も、その頃聞知した。

(六) また、申立人は、当時、東京都に納入すべき市場施設使用料等も常時滞納しているような状態であつた。(疎乙第八号証参照)

八、以上のような事実から、被申立人は、申立人が付属営業を行なうに足る資力及び信用を有しないものと認め、中央卸売市場業務規程第四〇条の二第一号に定めるところにより、昭和四二年四月二二日付で本件執行停止申立書に記載されているように申立人に対する業務許可を取消し、あわせて、前記施設使用指定を取消し、市場施設(用地)の返還を求めたものである(疎乙第九号証参照)。

九、ところで、その後、市場管理部において調査したところによれば、本件建物は、申立外和孝商事株式会社によつて競落(昭和四二年四月二五日競落許可決定)されたが、本件申立人から即時抗告(東京高等裁判所昭和四二年(ラ)第二五〇号)があり、結局、競落許可決定を取消す旨の決定があつた。

その理由とするところは、要するに、競売申立人オーストラル・ニホン・バイヤーズは、(同人の債権に先だつ目的不動産上のすべての負担及び手続の費用を弁済すれば)競落代金額から一銭の交付も受けられないことは記録上明らかであり、このような場合は、競売申立人のために何らの利益もない手続を進行させるべき合理性がないというのであつた。

第二(本件申立ての却下を求める理由)

本件申立ては、次に述べる理由により却下さるべきである。

一、申立人の本案請求は、左記のとおり理由のないものである。

(一) 申立人は、本件処分の根拠となつた東京都中央卸売市場業務規程(以下、「業務規程」という。)第四〇条の二第一号等が憲法に違反するから、従つて、同規程にもとづく本件処分も違憲であつて効力を有しないと主張する。

しかしながら、右主張は、次に述べるとおり失当である。

(ア) 右業務規程が憲法第一三条、同二二条に違反し、国民の権利、職業選択の自由の蹂躙を許容するものであるという点について。

中央卸売市場は、公共の福祉を増進する目的で設置された公の施設である。

従つて、市場内において業務を許可する場合、一定の基準を設けて、その者が業務を行なうことが設置目的に寄与するか否か審査することは、開設者に与えられた当然の権限であり、また、許可をうけた者が右基準に合致しなくなつた場合、公益的見地からその許可を取消すことも許されて然るべきである。

憲法で認められた自由や権利も公共の福祉に反しない限度において享受さるべきものであるから、これに反することとなつた者について許可の取消しを定めた業務規程が憲法の精神に反するものとはいえない。

(イ) 同規程が法定の手続を保障した憲法第三一条に違反するという点について。

行政処分をなすにあたつては、常に必ずしも公開による聴問又は意見陳述の機会が付与されなければならないものではない。

(ウ) 同規程が憲法第二九条に違反し、財産権の不当な侵害を認めるものであるという点について。

財産権は絶対不可侵なものではなく、その内容は公共の福祉に適合すべきものである。

業務規程により業務の許可をうけた者が、許可存続期間において、同規程に抵触しないかぎり、如何なる投資をするも自由であるが、その投資額や資産の多寡が公益上の理由に優先する許可存続要件たりえないことはいうまでもない。

(エ) 同規程が憲法第一一条、第一二条及び第一三条に違反し、行政庁の不当な権限行使を認めるものであるという点について。

中央卸売市場は、先に述べたとおり、公共の福祉の増進を目的として設置されているものであつて、特定の業者の利益を擁護することを目的としているものではない。

また、単に当該業者と開設者ないしは他の市場業者間の利害のみを考慮して運営されているものでもない。

公共の福祉を目的とする施設において、その目的に反することとなつた者を当該施設から排除することは、行政庁にとつて当然認めらるべきことであつて、かかる権限の行使につき定めた業務規程が国民の自由及び権利を保障する憲法の法意に反するとは到底いえないものである。

むしろ、右のような目的をもつた施設内において、いつたん業務許可がなされた以上、そのまま許可を存続させなければならないとする主張には、何ら合理性がないものである。

(二) 次に申立人は、本件処分の根拠となつた業務規程第四〇条の二第一号等は、かりに違憲でないとしても、中央卸売市場法(以下「法」という。)に違反する無効なものであり、従つて同規程にもとづく本件処分も無効である旨主張する。

しかしながら、申立人の右主張は、以下述べるとおり、申立人の誤解にもとづくものである。

(ア) 右業務規程が法第一八条第一項及び第二項に違反するという点について。

法第一八条第一項及び第二項の規定は、農林大臣が開設者(法第二条の規定により農林大臣の認可を受けた者)又は卸売の業務をなす者(法第一〇条の規定により農林大臣の許可をうけた者)に対してする処分にかかわるものであつて、開設者が、その権限に基づいてする処分に適用されるものではない。

附属営業の許可は、法の規定に基づくものではないので、これについては法の規定に拘束されるものではない。

従つて、この点に関する申立人の主張は失当である。

(イ) 同規程が法第三条に違反するという点について。

市場事業は、地方自治法第二条第三項第一一号に規定されているように、本来的に地方公共団体の事務(公共事務)に属するものである。

従つて、地方公共団体は、同法第一四条第一項により、市場事業に関して条例を制定することができる。

ところで、法第三条第一項の規定は、条例たる業務規程をもつて定めるべき必要最少限度の事項を列記したものであり、また、同条第二項は、農林大臣が許可権限を有する卸売人について、同規程中に人数等の制限規定をもうけることを許容したものであるが、業務規程が地方公共団体の公共事務に関する条例である以上、これらの事項以外に、当該団体が、市場の管理運営上必要な事項につき同条例中に規定をもうけうることは当然である。

従つて、市場事業が法律に基づくいわゆる委任事務であり、法所定事項以外の事項を規定した業務規程は無効であるとする主張は理由がない。

(ウ) 右業務規程が法第一〇条の五の二、同第一六条、同第一〇条の六、及び同第一〇条の七に違反するという点について。

右法の各規定は、いずれも、卸売の業務をなす者に関するものであつて、業務規程により業務の許可をうけた附属営業人には関係がない。

(三) 次に申立人は、(業務規程第三九条の四第四号及び同第四〇条の二第一号によれば)業務許可の取消しは、附属営業を行なうに足る「資力」、「技能」、及び「信用」のいずれをも有しなくなつた場合においてのみなしうるものであるところ、本件処分は、「資力」及び「信用」の二つを欠くことを理由としてなされたものであるから違法であると主張する。

しかしながら、業務規程第三九条の四第四号の規定の趣旨は、附属営業を行なうに足る「資力」、「技能」及び「信用」のいずれか一つでも欠ける者については業務の許可をしないということであり、同規程第四〇条の二第一号の規定の趣旨は、許可不適格者については許可を取消すということであるから、この点についての申立人の主張も理由のないものである。

なお、本件処分時に、申立人が附属営業人として「資力」及び「信用」を欠くに至つていたことは、さきに(事件の経緯)につき述べたとおり(なお、付言すれば、市場は、信用を最も重視する場であるところ、附属営業人たる申立人が、オーストラル・ニホン・バイヤーズに対し、前記のような不信行為を行なつたことは、流通過程の中核をなす市場自体の信用を害するものである。)であり、申立人が事実上営業休止の状態に至つたこと、申立人の営業の唯一の本拠たる加工場の建物が抵当権実行により競売に付されたこと、及びその後の競落許可決定取消の理由が、前記のとおり、競売申立人に申立ての利益がないということであつたことは、その動かし難い証左である。

(四) なお、申立人は、本件処分は権限の濫用である旨主張するが、被申立人が恣意的に本件処分をしたものでないことは、(事件の経緯)よりして明らかである。

二 申立人は、本件処分により回復し難い損害をこうむるものではない。

すなわち、申立人は、さきに述べたとおり、本件処分時には多額の負債をかかえ、市場内にあるその所有建物につき抵当権実行に因る競売の申立てをうけ、また従業員の大半も解雇するなどして、本年三月ごろ以降営業休止のやむなきに至つていたものであり、本件処分により特に損害をこうむることはないものである。

かりに、申立人が本件処分により損害をこうむることがあるとしても、それは金銭をもつて償えるものであつて、回復困難な損害であるとはいえない。

よつて、申立人には本件処分の効力の停止を求める緊急の必要性がない。

三 なお、付言すれば、申立人の主張を容れ、本件処分の効力の停止を認めるとすれば、それは公共の福祉に重大な影響を与えるものである。

すなわち、中央卸売市場は、公共の福祉を増進するため設置されているものであるところ、本件申立てを認容すれば、同市場において、その設置目的に適合しない者の営業を許容し、業務の正常な運営を阻害するにいたるからである。

(別紙図面(一)(二)省略)

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